日本国憲法第九条 戦争のない自由で平和な世界を目指して

憲法第九条は、自衛戦争を含めて一切の戦争を放棄している。教育・医療そして仕事を作り出すことが、結局は戦争のない世界を構築する礎になる。

集団的自衛権の行使を認める安全保障関連法は立憲主義に反する

2015.09.30

 2015年9月19日、ついに安全保障関連法が成立した。とてつもない不安が心の奥底からわき上がってくる。この問題を論理的に考えなければならないという衝動に駆られ、この文章をアップした。

1 立憲主義

日本の国がよって立つ立憲主義とは、憲法によって人権保障のために国家権力を拘束する、という考え方だ。国家権力は、民主主義の国であれば、国民の多数派によって創り出されたもの。国民の多数派に歯止めをかけて、少数派の人権を保障することが憲法の目的だということになる。だから、憲法はときとしてデモクラシーにも歯止めをかけることになる。多数派の主張が常に正しいとは言えない、少数派の主張に時として正義がある。奪ってはいけないものがある。第二次世界大戦の際に、軍部の独走を抑えられなかった反省からもきわめて説得力がある。

2 存立危機事態

2015年09月19日に成立した安全保障関連法は、武力攻撃事態・重要影響事態・国際平和共同対処事態などさまざまな事態を想定しているが、ここでは存立危機事態を取り上げて検討したい。その違憲性・危険性がもっともよく表れているからだ。
 存立危機事態とは、「国の存立を全うし、国民を守るための切れ目のない安全保障法制の整備について」 2014年7月1日 国家安全保障会議決定 閣議決定 と安全保障関連法によれば、
 ①我が国と密接な関係にある他国に対する武力攻撃が発生し、これにより我が国の存立が脅かされ、国民の生命、自由及び幸福追求の権利が根底から覆される明白な危険がある場合(存立危機事態)において、②これを排除し、我が国の存立を全うし、国民を守るために他に適当な手段がないときに、③必要最小限度の実力を行使することは、従来の政府見解の基本的な論理に基づく自衛のための措置として、憲法上許容されるというものだ。

 具体例として、安倍首相は2014年7月、集団的自衛権の行使を認める閣議決定後の会見で、日本人が乗る米国の輸送艦が他国から攻撃を受けるパネルを掲げ、こう訴えた。「我が国への攻撃ではないが、それでも日本人の命を守るため、自衛隊が米国の船を守る。それをできるようにするのが今回の閣議決定だ」と述べた。

 野党は2015年8月26日の参院特別委で「退避する邦人が米軍艦に乗っていることのどこが『存立危機』なのか。我が国の存立が根底から覆されるのか」(民主・大野元裕氏)と指摘。行使の条件となる武力行使の新3要件を満たさないのではないかとただした。

 この際の中谷元防衛相の答弁は、首相の説明とは食い違った。「邦人が乗っているかは判断の要素の一つではあるが、絶対的なものではない」とし、退避する日本人を守るというだけでは集団的自衛権の行使ができないことを認めた。だが、何が認定の理由になるかは「総合的に判断する」と述べるだけであった。2015年9月14日の参議院特別委で安倍首相は「我が国に戦禍が及ぶ蓋然性は、攻撃国の様態、規模、意思等について総合的に判断する」と述べている。


 結局、3要件を満たすかどうかは、「総合的に判断」されることになる。
「我が国の存立が脅かされ、国民の生命、自由及び幸福追求の権利が根底から覆される明白な危険がある場合」という基準はきわめて曖昧である。「明白な危険」という表現は、その文字とは裏腹にどうとでも解釈できる都合の良い言葉である。最終的には、政府の判断でどうにでもできてしまう。

またもし国会におけるチェックがあったとしても、主に防衛分野の秘密保持を徹底させる「特定秘密保護法」が2014年末に施行されたことで、政府が国会審議に必要な情報を示すことはないだろう。この点についても国会審議の焦点となった。

 対処基本方針に盛り込まれる存立危機事態に至る経緯や事実関係について、中谷防衛相は2015年7月29日の参議院の委員会の質疑で「特定秘密が含まれる場合も考えられる」と答え、情報の一部が開示されない可能性を認めた。そのうえで「情報のソース(出所)、具体的な数値は明示しない形で情報を整理し、特定秘密の漏洩(ろうえい)に当たらないように認定の根拠を示す」と説明した。

 これに対し野党は「特定秘密の対象となれば情報全体が隠される。その部分を示さないでどうやって国民は判断できるのか」(共産・小池晃氏)などと批判している。

3 安全保障関連法制は立憲主義に反する
(1) まず第一に、我が国が攻撃されなくても、我が国と密接な関係のある国が攻撃された時、日本がその軍備を使ってその攻撃国を攻撃することができるとする集団的自衛権の行使は違憲である。日本国憲法九条は、自衛権はもちろん、目的及び実体の両面からみて、対外的軍事行動のためにもうけられている人的組織力と物的装備力を持つことも認めていないからだ。

(2) 第二に、国民の自由・権利を守るために権力者としての政府を拘束することが、立憲主義であるとすれば、「総合的に判断」「明白な危険」などきわめて曖昧な判断基準に基づいて政府が行動できれば、立憲主義による拘束は不可能になる。安全保障関連法制は立憲主義に反する違憲立法である。立憲主義による拘束を無視して、自由に政府が解釈・行動できるようにすることが、安倍内閣の狙いであろう。
「中東の安全保障環境が不透明性を増す中で、あらゆる事態に万全の備えを整備していくことが重要」(2015年7月27日参議院本会議で安倍首相)とすれば、世界最強の軍隊を持つロシアを仮想敵国とすれば、世界最強の軍隊を持って対抗することになる。これが安倍首相の「積極的平和主義」の最終目標であろう。

 

4 安全保障関連法によって日本が戦争に巻き込まれる恐れは一層なくなる、のか?

(1) 安倍晋三首相は2014年7月1日の閣議決定の際の会見で「万全の備えをすることが抑止力。日本が戦争に巻き込まれる恐れは一層なくなる」と述べた。

 (2) しかし、日本国憲法前文には、「日本国民は、恒久の平和を念願し、人間相互の関係を支配する崇高な理想を深く自覚するのであつて、平和を愛する諸国民の公正と信義に信頼して、われらの安全と生存を保持しようと決意した。」と明記されている。武力によらず平和を愛する諸国民の公正と信義に信頼して日本の安全と生存を守ろうと決意しているのだ。

 

(3) 2014年のノーベル平和賞受賞者、マララ・ユスフザイさん(18)は、2015年8月インタビューに答え、以下のように述べている。
 「彼ら(世界の指導者)に対して、教育や保健衛生こそが人々にとって重要なのだと思い出させる必要があります。銃を製造することで人を助けることはできないのです。子供に銃を渡して、助けていることになりますか。私はこのお金を銃には使わず、代わりに学校や医療に使うと言うことこそ、その人を、その子供を助けることになるのです。」

 「私が無人機攻撃の問題に触れたのは、無人機がテロリストを殺害できるのは確かですが、テロリズムを、テロリズムの思想自体を殺すことはできないからです。テロリズムに対してそれを止めたければ、あらゆる児童が質の高い教育を受けられるよう保証する必要があります。こうした人たちの多くは教育を受けておらず、職がなく失業中で、希望もないのです。そして彼らは銃を取るのです。子供たちに銃を取らせたくないのであれば、本を与えなければなりません。」

(朝日新聞デジタル2015年9月25日)


 武力は憎しみを作り、新たなテロリズムを生む。何をすることが日本の平和と安全にとって重要かは、マララさんの言葉に良く表れている。軍事力を持って戦争の行われている国や地域に行けば、地元の人々は平和を守りに来てくれたとは思わずに、武器を取って向かってくるでしょう。日本が戦争に巻き込まれる危険性はますます増大するのです。

 

5 安倍政権は安全保障関連法の成立をなぜ急いだのか?

 (1)  安倍晋氏が自民党総裁となって迎えた第46回衆議院議員総選挙(2012年12月16日投開票)で、自民党が圧勝して、民主党から政権を奪還した。これにより、2012年12月26日に第2次安倍内閣が成立した。またとない機会の到来であった。安倍晋三の従来からの戦略である日本を米国・中国・ロシアなどに並ぶ軍事大国とするチャンスであった。

 (2) 2015年はサッカーワールドカップが開かれる年、国民の目が外を向き政治への関心が薄れる年。政治家がよくやるどさくさに紛れて重要事項を通す機会であった。
 (3) 2015年はTPP(日本・米国を中心とした環太平洋地域による経済連携協定EPA)の意味。正式名称はTrans-Pacific Partnership(略してTPP)という。環太平洋地域の国々による経済の自由化を目的とした多角的な経済連携協定 (EPA) である。)の締結に向けた最重要の年。米国との自動車・農産物・知的財産権などをめぐる交渉で、米国は相当強硬に出ている。米国経済の落ち込み、自動車業界や農業従事者からの圧力、イラク戦争アフガニスタン戦争による経済の疲弊などから、米国は日本に、貿易関税障壁の撤廃、軍事的には応分の負担を求めてきている。日本政府とすれば、米国の軍事費負担の軽減に貢献することで貿易交渉を有利に進めたいのだ。
 (4) 東日本大震災に伴う福島の原発事故。日本の重厚長大産業は原発で相当のもうけを得てきたが、国民の原発離れに伴い、原発からの収益が極端に悪化した。東芝の不正会計問題もこれと無関係ではない。それに変わる巨大産業としては定番の軍需産業へとまたしても手を伸ばし始めた。再生可能エネルギーには目もくれず、安易な従来からのいつか来た道へと復帰した。経団連などの産業界からの圧力は相当なものだろう。